さて、鬼さんはホールに入って来ても一言もしゃべりませんが、意外にみんなのことを知っていて、何人かの子どもたちを捕まえます。すると、捕まった子どもたちは本当はとても怖いのですが、「僕の、私の、悪い虫を退治してください」と、先生と一緒に鬼さんに頼みます。そして、それが終わると、泣きながら、また豆を投げつけます。「泣いてちゃダメなんだよ、追い出してもらわなきゃ!」
ゆり組さんの中には、鬼の正体を見届けようと、おっかなびっくり、でも、じっと見ている子どもたちもいます。「園長先生はみんなと一緒にいたから、鬼じゃないよね」「あの鬼、首のところは肌色だった。ちゃんと見えたよ」「人間かもね」。すると、先生はすかさず「人間だったんだけど、悪い虫がいっぱいいて鬼になったのかも。鬼さんもいい人間に戻りたいのかもね」—と、上手いことを言って、みんなをナットクさせました(なお、鬼さんが誰だか、誰も知りません。子どもたちにも絶対秘密です)。
さくら組では、お腹の中の悪い虫を鬼さんが退治してくれますと先生が言うと、皆んなで虫探しが始まり、「靴を履かない虫」や「弟とケンカしちゃう虫」などたくさん出てきました。「悪い虫はゼロ匹」と言っていた子も、「隠していると、どんどんお腹の中に溜まっていくかも」と先生に言われて、慌てて教えてくれました。
ちゅうりっぷ組でも「泣き虫」「弱虫」「怒り虫」「いじわる虫」など、いろんな虫がでてきましたが、皆んなでこういう話をしながら、実は人生で「初めて自分を振り返る」経験をしているのです。周りの皆んなが自分をどう思っているのか、それが自分が思っている自分と同じだったり、違ったり… これは3歳児にとって、幼稚園ならではの、そして、戸山幼稚園の節分集会ならではの、貴重な体験なのです。