「裁く方は主である」 2からの続き
ところが、何と、円城寺主審 ーー この方は当時、名審判として鳴らしていた人でしたが ーー のコールは「ボール!」でした。投手のスタンカはマウンドから駆け降り、円城寺さんに詰め寄って、英語で何かまくしたてました。すると、打者の宮本が何か言い返しました。一触即発だったのですが、カンカンに怒りながらもなだめられてスタンカはマウンドに戻り、今度こそ最後の一球と、ほとんど同じコースに同じ直球を投げたのですが、これを宮本が見事にライトに打ち返し、2 者生還で巨人の逆転サヨナラ勝ち! そして、結局、シリーズのほうも、このあと巨人が連勝して、4 勝 2 敗でものにしました。頭にきたスタンカは宮本に打たれた後、ホームのカヴァーに入る振りをして、円城寺さんに体当たりしたという尾ひれまでついた試合でした。
実は、このシリーズを振り返って、その後、野村克也監督は回顧録をしるしています。実はあの「ボール」は自分の失敗のせいだった、捕手として何とも未熟だった、と言うのです。キャッチャーであった自分は、スタンカのアウトコーナー低めの豪速球を 3 ストライク目と確信して、これで勝って試合終了!と思わず思い、それで捕球しながら腰を浮かせてしまった、と言うのです。私もそれを見ていたのですが、野村捕手のその動作がアンパイアーが球筋を最後まで見届ける邪魔になってしまい、ストライクをボールとコールさせてしまったのでした。野村氏に言わせれば、捕球後も、じっくりと腰を落とし、しっかりと構え続けていたら、主審のコールもストライクで、南海の勝ち、試合終了のはずだった、というわけです。
「裁く方は主である」 4 へ続く